永井ますみさんのサイト「山の街から」の連詩コーナーに投稿した詩。

「山の街から」↓

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27.現代詩(はなびーる)
大海原に釣糸を投げ、言葉がひっかかるのを待っている。背中はいつも不安で寂しい。海を見ながら、海のことを何も知らない。波打ち際に遊ぶ。血を吐くまで深く潜る。ヨットで嵐を超えてゆく。何でもできる自由の前で足が竦むんだ。でも。そろそろ言葉を迎えに行かなくちゃ。


28.拡散(はなびーる)
「この紋所が目に入らぬか!」格さんが印籠をかざす。《善》も《悪》も等しくひれ伏し、暴力は鎮まる。牧歌的な時代劇だね。ピラミッドの国では、指導者のないデモ、拡散する扇動、拡散しっぱなしの不安、夜明け前の陣痛、流血!囀り共振する世界。イマココ、は地続きなんだ、否応なく。


29.夕霧(はなびーる)
幼馴染みの内気な貴方、一緒に童歌を歌う時は嬉しそうだった。正順さん、貴方に、この廓の苦海から連れ出して欲しかったのに、たった一人で死んでしまって。でも、私ももうすぐ終わる。血の色の百日紅が時を知らせる。息は苦しいけれど、仄暗い霧の向こうから貴方が呼んでいる。来世へと続く、産道が見える。
                       映画『五番町夕霧楼』(1963、1980)より


30.家路(はなびーる)
ひとりで歩く駅の裏。うら寂しい道、帰り道。学校で叱られた、おニューの服で立たされた、ランドセルがずしんと重い。横穴の古墳が見える。薄紫の闇、お化けがうごめく、もうだめ…「どしたの。」後ろから肩たたかれる。姉さん。ねえさんだあああ。急に走りたくなった、家まで競争だよ!「まてえ!」ちっちゃなランドセル弾ませて。来年は、もう一緒に帰れないね、姉さん。


31.牛(はなびーる)
小屋の片隅 犬と少年は日がな一日 牛のよだれを見上げていた ゆっくりと反芻される口から繰り出される糸・糸・糸…いっこうにとぎれなく 地球の裏側の赤い大地にも 牛はいると聞いた(犬に子供の守をまかせ 忙しい親は安心しきっていた) まどろみながら少年は とぎれない糸を長々とたどりたどって 地球の裏側へつきぬけていた もう戻る道はない そして犬だけが残された


32.米(はなびーる)
きゅっきゅ、きゅっきゅ。小鳥たちの囀りに似て。ざざざあ。戯れ掻き混ぜられる、輝く時粒。一粒もこぼさぬように、大切に。子らを纏わりつかせた日も、萎れた花を見つめていた日も。きゅっきゅ、ざざざあ。米を研ぐ音が、日日を生きるリズムを刻む。


34.沖縄(はなびーる)
♪沖縄よいとこ一度はめんそーれ、サァユイユイ♪柔らかな三線、弾む太鼓。ウチナー(沖縄)人と共に奏でる。「あなたとわたしは同じ日本人、だけど違う。」触れる場所と触れない場所、微妙な過去の襞。魂までコピーすれば許される。そんな言葉を信じて。ヤマト人とウチナー人が織り成す、チャンプルー(混ぜこぜ)の音。


35.音楽(はなびーる)
都会のオアシス、女性歌手は歌う。優しく透き通る声、地震の酔いより毅く、ビルの間を染みてゆく。天然のしずくの音に、わたしも染みてゆく、心ごと、体ごと。変わり果てた町々にも、傷ついた人々にも、祈りは、音となって、染みてゆくのだろうか。


36.絶妙(はなびーる)
もしも銀河の中心にいたら、光の坩堝でなにも見えない。宇宙の果ての暗黒なら、悩みなく凍りつくだけ。幸福?不幸?オリオンの腕に抱かれ、風と色彩と欲望の犇く星から、奇跡のように透き通る夜空に問う。わたし達の座標のない旅、何処へ・・・