永井ますみさんのサイト『山の街から』の連詩コーナーに投稿した詩。

『山の街から』

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19.影(はなびーる)
歌声は、青い樹液と鈍色の死の匂い。毒の滋味に酔いながら、あなたの影を追い求めた。フィヨルドの海の奥深く、海草に潜む鯨面の半魚人。胸を開き、ルビーの心臓を掴み出し、あなたは歌う。《ここに口づけし、運命を共にする覚悟はあるか。わたしの名は“希望”。人類が罹る最後の病気だ。》


20.女(はなびーる)
ため息が流れ出ぬよう、女はお面をつける。妻、母、淑女、社会人、…と忙しい。扱いには注意を要する。たまにつけるお面を間違えると、家族が夜の街を彷徨ってしまう。足るを知らなければ、お面は増殖する。喜びに忘我すると、お面は舞い踊る。怨みが極まると、お面は顔に貼りつき、生きながら器(うつわ)になってしまう。喜怒哀楽すべて、だた表面をたゆたうのみ。


21.夜なべ(はなびーる)
母ちゃんは、夜中鍋を見張ってる。父ちゃんのために、じっくり大根や里芋を煮ているんだ。帳簿も付けている。子供達が独立しても、変わらない風景だ。父ちゃんの自慢は、生まれてから一度も、徹夜をしたことがないってことだ。明日の朝一番に父ちゃんは、女王を取り返すための戦いに行くのだよ、パチンコ屋へ。


22.トランプ(はなびーる)
ポーカーフェイス装い 本音の意味を知らず 逃したタイミング 切り札は報われず ゼリーになって 灰色のクラウド(雲)の下 勝ち上がった者の さざめきが降りかかる 月はとっくに隠れた 桜が凍りつく森で


24.約束(はなびーる)
暁の輝星に胸躍らせた。憧れの君と手をつなぎ、円舞曲を踊りたかったのに、何かが足りず拒まれた。おお、ヴィーナス!時の砥石で夢を鍛えよう、6年後巡り来るチャンスまで。君の重い心に弾かれるか、煉獄に落とされるか、恐れず挑んでみせよう。待っていておくれ。優しい国の宙の船を。


25.証人(はなびーる)
なにもない青空に あっ ぽちり 〇 白いピリオド 見る間に育ち 小さな羊に そのまわりに いくつも現れて 羊たち 寄り集まって 塊になり やがて 大きな翼の鳥に 雲が生まれる 瞬間 見届けた私 は 証人だった あれから ずっと 空に打たれる ピリオド を さがして