永井ますみさんのサイト「山の街から」の連詩コーナーに投稿した詩。

「山の街から」

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43.幼児虐待(はなびーる)
あわわ、あわわ。泣きやまぬ赤子の口を、塞いでは開く、手のひら。このまま、塞ぎつづけたら・・・ずきん、胸が波うち、よぎる、「ぎゃ・く・た・い」の不穏なひらがな。のびやかに、と願いながら、ささくれた心。あわわ、あわわ。ひらひらおどける手のひら。母親を信じきった、つぶらな瞳の微笑み。


44.人間(はなびーる)
俺は万国博覧会のとき生まれて、TAROさんが「太陽の塔」って名づけた。最初は広場の屋根があって子供の声とかで周りはにぎやかだったが、今じゃ一人で野っ原に立ってる。俺の中には、太古から人間までの歴史を表わす血管ぽい木があって、サーカスみたいに昔の生きもんがくっついてる。俺の金ぴかの顔は作り物で、実は何も見えてない。俺のいる場所が夢の跡か、夢の始まりかは、これからの人間が決めることさ。


45.金(はなびーる)
明日は遠足。百円までだよ、念押され駄菓子屋へ走る子供。小さな籠に色とりどりのお菓子を入れる。オレンジのガムが欲しくて悩む。「おばちゃん、これ、買えるよね」「はいよ、しめて百円」交わす笑顔。握りしめた汗でピカピカの、宝物の硬貨。街に子供がいるかぎり、おばちゃんは店を続ける。


46.戦争(はなびーる)
ばあちゃんは戦争未亡人で、苛められてひねくれてしまった。北の部屋から、孫たちに暗い顔で小言ばかり。戦争は知らないけど、戦争の影は、濃く長く家を覆った。鳥になったばあちゃん、今頃はもう、おじいさんを見つけましたか。もう悲しくないよね。南の島で、入道雲と好きな人と、楽しく暮らしているよね。


47.挽歌(はなびーる)
よそ見していて、横面を張り倒された、罪の水に拉がれ、亀は太陽に赦しを乞う、悲しみと怒りは膨れ、フィルターを越えていや増し、線量計のノイズと、高く!唱和する! ・・・山川草木悉皆成仏、あらゆるものの痛みを悼み・・・枯れるな、歌よ。枯れるな、言葉よ。


48..東京(はなびーる)
「生き馬の目を抜くところよ。」知ったかぶりで息子に話した。都会の巨きさに戸惑い、愉しげなノイズに魅かれ、歩き疲れて見上げた東京タワー。暮れ残る夕日のような灯りは「おかえり、どうだったね。」と抱きとめてくれた。今ではあの子の住む町、夢を羽ばたかせる町。T・O・K・I・O 、ときめきは色褪せない。


50.たんぽぽ(はなびーる)
故郷という言葉があなたに似合った。夜明け前から田畑で働き、家族の世話に心をくだき、手作りのもてなしで客を迎えた。旅をしない人だと思っていた。けれど、かつて子供たちを入れて散歩した籐の乳母車に、タンポポの綿毛をいっぱい乗せて、飛ばしていたのだ、もっと、もっと、遠くへ…と。今は夕凪のまどろみの中、あの綿毛よりも軽やかになったあなた。